HOME > 資料・読み物 > 岡村廸夫のページ > 17.反論のしかたと育て方

資料・読み物

17.反論のしかたと育て方

100%賛成の意見

 日本の大新聞の社説,あるいは「春秋」,「鉄箒」,「天声人語」のような代表的コラムが良い例だが,反対をする人のできるだけ少ない,いわゆる「代表的意見」が正しい主張であり見解であるかのように扱われている。
 反論のないのが良い論説で,反論するのが失礼であったりする日本の常識は,まるで誤っている。全員が賛成する会議や,異議なしで通るシャンシャン株主総会のごときは荒唐無稽な茶番劇であろう。
 そういうところで無理に反論するのは,今度は始末の悪いゴネ屋になってしまう。こうした問題の具体的解決策はないか。

一つの実例

 社長まで出席している会議で,社内の創造力をもっと生かそうという話になり,新米の部長だった私に司会が「君は特許で稼ぎ頭だから,鋭い技術者が何を考えるかわかるだろう」ときた。「まず会社を辞めますね」と答えて,しまったと思った。すうっと座が白けるのがハッキリわかった。しかし「ほう,そりゃ大変だ。なぜかねぇ」土光さんと慕われた社長の声を今でも覚えている。この一言で会議は私への非難ではなく,技術者がなぜそう考えるかという方向へ進んだ。 日本の会議ではこうした場面で多くの人は「場所柄もわきまえず何を言うか」と反応する。しかしそれでは場所に合った,おためごかしの発言しか出てこない。異論や新しいアイデアは拒否され,何のための会議か,衆知を集める機会は失われる。

上に立つ人の役割

 大勢と違った意見を述べるのは,容易ではない。その発言は,いよいよというまで我慢した挙げ句,ついに爆発するという形になる。その結果どうしても,適切でないタイミングで,不機嫌な暗い表情と思いやりのない極端な表現となりやすい。
 したがって多数派にはいっそう受け入れにくい。そういう発言をする人を異端視し,異端者はまなじりを決しついに離れていってしまう。これが現在の典型的な日本企業の体質を招いた。 上に立つ人の役割は,前述の例に凝縮されている。だが自分で試してみるとわかるが,凡人にはとっさにこれほどうまくはやれない。反論が自由にできる空気を作りたいが,下手をすると不平屋を養成することになる。その見分けが,本人の見識である。
 甘言ばかりが耳に快いのでは,上に立つ資格はない。苦言が聞けない指導者は,すぐに後進に道を譲るべきだ。

反論がなぜ出ないか

 これではいけない,反対しなくては,と思ったとたんに人はどうしても強硬になる。我慢すればするほど,その傾向は激しさを増す。闘争本能をむき出しに,相手のことを考えずに反論したのでは,主張の内容がどんなに正しくても相手は受け入れない。いや,それが正論であればあるほど,受け入れ難くなる。
 これを繰り返すとついには,ゴネ屋,不穏分子などと人柄にレッテルを貼られ,仲間から放出されてしまう。日本人の多くがこれを極端に嫌い,恐れる。その結果としてお追従係,お茶坊主が隆盛を極める。
 これは昨今問題となっている二三の銀行や,証券会社,特定の地位だけに限った問題ではない。このありさまでは世界に伍してフェアで機敏な判断や行動などできるはずがないのだが,読者の職場では,こうした課題は解決済みであろうか。

反論の出し方

 受け入れられやすい異論の出し方を挙げよう。まず必要なことは,俺は知らないよと投げ出すのではなく,自分も共同責任だという姿勢で,少数意見であることを自覚し,謙虚に冷静に述べることである。
①  機嫌よく,真面目に,自分の問題として
②  あまり溜めない
③  疑問形で出す(自分が正しいとは限らない)
④  追いつめない(撤回もフェアに)
⑤  相手の立場を考え,理解をそえて
 ずっと我慢していると,手遅れになったり言いつのったりするから,②溜めすぎないほうがやりやすい。柔らかくぶっつけるには③が役立つ。
 自分の論旨が正しくても,④⑤相手を崖から追い落としてはいけない。否決されたとき,撤退するときは機嫌よく,フェアプレイでいくこと。いくら正論でも受け入れられないこともある。例えば,「絶対に正しいという主張は世の中にないんだ・・・絶対に!」

-■

(初出:トランジスタ技術,CQ出版社,1997年11月号 第34巻 第398号 連載17:反論のしかたと育てかた)

[NEXT ] 18: 忙しさからの脱却

ページのTOPへ