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16.イメージ時代の陥穽

女学生の風俗

 朝の電車が止まって,近くの学校に通う大勢の女子学生がどっと吐き出されてくる。電車は通過する特急をしばらく待つから,すぐには乗らず,制服の群をやり過ごす。ここしばらく彼女たちはほとんど例外なく,白く長いぶくぶくの靴下をはいていた。
 アレッテ カッコイーノ ダロウカ。奨励もせず補助金も出さず,これほどの割合で普及させるメカニズムは,いったいどこにあるのだろう。

女性の雑誌を見て

 ふとした機会から普通の若い女性の雑誌をたくさん入手した。今の若者,特に女性がどんなものを読んでいるのかと,かなりの時間を費やして丹念にページを繰ってみた。そして呆れた。
 特集:あこがれのモデル顔になる・・・並んでいるモデル顔とは,腑抜けの白痴顔にしか見えない。ペンキを塗った長い爪,染め分けた髪,肩までとどく耳飾り・・・これなら,南方には鼻に輪を通し,下顎に皿を入れる伝統的なファッションだってあるぞ。
 別の特集,シャンプーにエステ,うまい食べ物の店,ブランド物や装身具の安い店,恋人を作る方法,等々。
 上等な紙に美しいカラーで,そのうえ安い,ということはかなり売れているようだ。ここで想定している読者,そんな見かけばかりの人たちが母親になったら,その子供たちは,その先の社会はどうなるだろう。
 伊藤博文は次世代を築くには女子教育が不可欠と考え,東京女学館(東京渋谷区に現存)を創設したというが,今の日本はその正反対に向かってはいないか。

男性にも原因

 女性がこうなるには当然それにふさわしい軽薄な男性が,すでに増えているに違いない。一瞬のイメージや感性を大事になどというが,官能や欲望とどれほど違うか。後者なら犬猫と大差がない。
 さりとて,会社人間の男性に何とか女史の卵みたいな組み合わせでは・・・との心配もある。それなら男女にかかわらず,デートの話題に「クオレ」や「レ・ミゼラブル」(「愛の学校」,「ああ無常」の題で訳本あり,小学生版でなく大人向けの翻訳を参照のこと)をじっくり読んで話題にしてはどうだ。難破船上に残った少年の行動を君はとれるか,ジャベール警視はなぜ自殺したか。
 それじゃあとっても相手は見つかりません・・・そうかなぁ,一時の迷いから変な配偶者に捕まるくらいなら,見つからない方が幸せだと思うけれど。

テレビと新聞雑誌の信用度

 雑誌や新聞に載った,テレビに出ていた・・・それらは記事も画像もイメージ(印象)を送るのみで真実を語らない。頼れる情報量が少なく,正確さは低い。
 米国ではすでに大統領の行動や政策までが,テレビや新聞がどう扱うかを見越して動いている。事実でなくてよい,国民にそう見えさえすれば,イメージは統計の数値より強くて,大衆は現実との区別がつかず虚構が事実だと思い込んでしまう。
 社会全体がイメージ主義,上っ面型に流れているようだ。信念と哲学のない奴ほど格好をつけるために欺瞞をやり,さらに嘘を隠すための・・・と自縄自縛(じじょうじばく)に陥る。
 先に(14)で「弱肉強食が資本主義」という考えは誤りだと述べたが,似非(エセ)資本主義で餌食になっている人は多い。いつかあなたものせられ,食われているかもしれない。
 儲けようと思って書いたものを読むな。彼らの推奨するもの,はやすものは,誰にでもそれほど必要か。

製品と嘘

 こうした例は技術分野にも多い。筆者は1996年暮に従来の230Mバイトと互換性があるという新型640MバイトのMO(光磁気ディスク)を増設した。不具合で問い合わせると「640MバイトのMOは640Mバイトで立ち上げ,540Mバイト以下は540Mバイト以下で立ち上げることが必要」で,混用すれば必ずハングアップが起こるという。リセットしないと使えないなら互換性もWindows95対応も不当表示で,正常に働くドライバを作って供給すべきだと文句を言った。
 その後半年に新型MOは日刊紙に全面広告が何回か,雑誌にも派手な特集記事が載った。だが互換性の宣伝文はそのままで,直ったという連絡もない。
 近頃は証券や銀行にかぎらず,大会社が平気で嘘をつく傾向が見える。これはトップの厚顔無恥だけでなく,下まで見かけばかりになっていることが原因ではないか。会社は顧客がいてこそ企業の存在価値があるはずだ。中身が嘘では,広告が大きいほど会社がだらしなく見え,イメージ作戦は逆効果なのだが。

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(初出:トランジスタ技術,CQ出版社,1997年10月号 第34巻 第397号 連載16:イメージ時代の陥穽)

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