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The End Of Start (始まりの終わり) /松本吉彦

The End Of Start (始まりの終わり)

 エコノミーもエコロジーも語源はギリシャ語のオイコス;生活の場だということです。人生の活動をよりよくする場のことを考える(科学する)ことによって、人それぞれが「しあわせ」になるための技(わざ)と術(すべ)を産み出す智を提供するのが本来の目的だったはずです。ところが、エコノミーは本来の目的を失念し、そもそも手段(メディア)であったはずの銭が目的になってしまい、人々を不幸にしています。かなり多くの人が、富める人々は悩み心を病みさらに銭を増やそうと不幸になり、貧しい人は少しでも銭を稼ぎその困窮から抜け出そうとして不幸に陥っているように思えます。
 科学と技術は、ここ200年くらは、その「悪の循環」=銭経済に乗っかることによって、暴走とも言える進化を遂げました。特に技術(工学)は、銭経済の奴隷として働かせられて来ました。銭を稼がない技術は「不経済」と言われます。銭を敬わない「不敬罪」かもしれません。さも不道徳な行為と決めつけられ、排除されます。奴隷として生かしておくわけにはいきません。
 私は、5歳の頃からエレクトロニクス遊びが好きで、いわゆるITの業界にも約30年も棲んできました。しかし2001年に捨てました。その狂乱に嫌気が差し、子育てを通して私を育ててくれた子供達の世代の事を考えると、そんな業界で遊び呆けててはダメじゃないか、と思ったからです。それで、今までの電気の経験をいくらかでも活かせたらと思い、電気エネルギー分野の勉強を始めました。学会活動も少しさせていただき、その中でたくさんの先生方のお話も拝聴いたしましたが、勇気づけられることは稀でした。ほとんどの先生方は、「コスト、コスト、まずはコスト」と仰います。驚いたのは、自ら経済の奴隷であると自嘲される先生がおられたことです。
 電気エネルギー=電力会社のビジネスモデルは19世紀終りにほぼ確立されて、その後100年以上も変革されていません。「大数の法則」をタイトで大規模なネットワークにより実現し、それにより負荷平準化を行い、(発電、送配電設備の)負荷率を上げ、大型集中化により効率を高め、銭を稼ぎます。そのビジネスモデルは、需要家が、電気エネルギーを貯められない・電気エネルギーを貯めない、あるいは、電気エネルギーを貯めることを考えさせない、ということを大前提としています。
 大規模集中化は、独占の術となり、それがより上記の電力会社のビジネスモデルを堅牢なものに仕上げてきました。それとともに、電気エネルギー技術は政治の道具=奴隷となっていきます。特に戦争を契機として、世の東西を問わず、電力会社は、政治に使われ、政治を使います。
 電気エネルギーに関する技術は、発明・発見を含め、政治や経済などによって他律的に発達したのであって、それ自体で人々のしあわせを考えて自律的に進歩したものはないとも言われています。
 「貯める」ということによる最初の革命は農耕革命です。木ノ実・草の実を貯めることから農耕を始めたのであって、農耕が初めではないと思います。
 しかし、少量貯めるということでは、世の中は革まりません。ディジタル通信の世界でも、インターネットの前に、パケット通信網が世界を覆っていましたが、情報革命には至りませんでした。インターネット(IPプロトコル)は、パケット通信ではありません。どちらかというと「パーセル通信」であり、インターネットとパソコンで「情報全体を、端末に、大量に、貯める」ということで、世の中引っ繰り返しました。
 電力貯蔵をお飾りでなく実現することにより、電気エネルギーのシステム様式は大変革を起すでしょう。環境負荷が少なく、この地球の物質循環に乗りそうなキャパシタに期待しています。しかし、キャパシタが、情報の世界のキャッシュ・メモリを目指したなら、つまり回生エネルギーやハイブリッド自動車の電力貯蔵を目指すのであれば、キャパシタは泡沫技術で終るでしょう。
 キャパシタの特質を見極め、電池を超えた向こうを目指し、「主たる電気エネルギーを、端末に、大量に、貯める」とによって、キャパシタは文字通り世の中を革めるパワーを持ち得ます。「主たる」とは、もちろん、再生可能エネルギー由来の電気エネルギーです。  

まったく新しい電力様式:エコネットの目指すところ

1.地球温暖化ガス・放射性廃棄物の発生しないエネルギーを共有したい。(ZERO Emissions)
化石燃料が無限にあるとしても現状の気候を望むなら化石燃料を焚くのは許されない。
核分裂核融合発電は地球文明が未経験の10万年の放射性廃棄物管理が必要で許容できない。

2.大惨事・巨大事故・広域停電の危険性を内在しないシステムに移行したい。(ZERO Disaster)
大規模化により効率を求めると、大規模システムの脆弱性が顕在化してくる。
自立を目指し、自律する小さいクラスタが緩やかにネットワークするほうがいいと考える。

3.エネルギー産業の障壁を下げ、誰でも電力を創れ・使えるようにしたい。(ZERO Barrier)
特に開発途上国は、未だ16億人が無電化であり、Step-by-Stepで創れる構造が必要である。
核分裂/核融合発電では巨大資本による巨大施設が必要で満足されない。

4.化石燃料涸渇過程における化石燃料争奪の世界大戦を未然に防止したい。(ZERO War)
そのために、化石燃料が少なくなる前に、太陽エネルギーへの転換を実現する必要がある。
化石燃料が少なくなり価格が急騰したら太陽エネルギーが普及するという希望は間違いである。

5.化石燃料涸渇後も、現状に近い地球文明を維持したい。(ZERO Fossil Energy)
現状に近い地球文明を維持するためには電気エネルギーが必要だと考える。
化石燃料涸渇後には太陽エネルギーからの電力しかない。

太陽エネルギーは遍在しており、その発電に適した新しい電力ネットワークが必要であると考える。
それなのに、大規模・集中発電、高電圧・大電力・長距離送電を前提とした19世紀以来のグリッドのままである。
だから、エコネットを提唱し、実証し実施しようとしている。我々に残された時間と化石燃料は極めて少ない。

さぁ、一緒に急ぎましょう。

松本高彦氏

執筆者: 松本吉彦
略歴
1973年~ 文筆業
1978年~1979年 アスキーマイクロソフト
1980年~1981年 ソニー株式会社
1980年~1987年 日本マイクロハード株式会社
1987年~2001年 株式会社アスキー
1995年~1997年 Power Computing Corporation (Austin, Texas, USA)
2000年~2000年 Biscuit Networks, Incorporated (Menlo Park, California, USA)
2001年~ NPO法人 ゼリ・ジャパン、ZERIエデュケーション・ジャパン
2001年~ 先端科学技術エンタープライズ株式会社、技術アドバイザー
2002年~2005年 VPEC株式会社
2003年~2007年 財団法人 産業創造研究所
2006年 東京電機大学工学研究科電気工学専攻博士課程卒業、工学博士

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