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ECaSS(R)の応用と発展

キャパシタのエネルギー密度は電池より小さいか

キャパシタは電池に比べて寿命が長いけれど,容量…正確にはエネルギー密度が小さいのが欠点だと言われる。ところが,これが正しくない。現在の蓄電池の容量とは,寿命を考えずに底まで放電したときの値を言う。だが,例えばハイブリッド電気自動車のように何十万?何百万回という充放電を大電流で行う用途では,放電の深さを浅く設定しないと寿命が持たない。

寿命を含めたラゴーンプロット:放電深度の設定値
【図1】寿命を含めたラゴーンプロット:放電深度の設定値
Li-ion 7%, NiMH 10%, VRLA 5%, Cap 50%, ECaSS(R)(ECS and ECSnew) 75%

図1は縦軸にエネルギー密度(1kg当り何Whの蓄電容量があるか)横軸に出力密度(1kgあたり何ワットの電力で充放電するか)で描いた通称ラゴーンプロットを改訂したものである。この図は従来と違って,商用車で必要な300万回(50万キロ,10年間)の充放電サイクル寿命を前提に,図の下に記した放電の深さを設定した状態でプロットしてある。
通常のハイブリッド自動車で必要な出力密度は常用値で500W/kg程度である。この辺で効率95%あれば充放電時の自己発熱を強制冷却しなくても済む,ほぼ理想的な動作が得られる。図では黄色の枠内200, 500, 700W/kgにマークをつけた。これら実用領域で比較するとキャパシタが電池よりエネルギー密度が小さいという根拠はなく,図示したようにECaSS(R)のエネルギー密度は新型二次電池よりむしろ大きい。

キャパシタや電池はどこまで安全か

Liイオンやニッケル水素など新型二次電池の安全性については議論があり,これに対してキャパシタの安全性は高いという。キャパシタが安全なのは溜まっているエネルギーが小さいからだなどの反論もあるが,図1で見るとそうではない。
蓄電デバイスの安全性は3つの段階に分けると考えやすい。

  1. 蓄えられた電気による危険
  2. 故障や事故時の異常反応による危険
  3. 漏出や燃焼時の発生物質による危険

1.は電気を扱う限り容量,電圧,電流に応じた危険があり,ブレーカー等の保護器と取り扱いで防ぐ。2.は新型二次電池に特徴的な危険で,一旦燃え始めた電池はほとんど消せないので高温,過充電,過放電など異常反応を誘発する条件を電子回路で監視して予防する。3.はこれまであまり触れられていないが,専門家の責任としてこの点を明確に開示すべきと思われる。

キャパシタの安全性の確保は2.は心配ないので3.の結果にかかっている。日本製以外、つまり欧米と韓国産の電気二重層キャパシタのほとんどが電解液にアセトニトリルANを用いている。ECaSS(R)で主力となっているプロピレンカーボネートPCに比べ,ANで同じ内部抵抗にすれば静電容量は二倍ほども出るが,引火点135℃でほとんど無毒なPCに対し,ANは引火点5℃で燃えると青酸ガスが生じる。ANを用いたキャパシタのメーカーは安全性保証(MSDS)をどのように書いているかを調べると「容器がハーメティックシールだから漏れない限り安全」「電解液以外のすべての材料は無毒」などとしている。

衝突や火事のときの心配をしていたら物は作れない,燃えたときの問題ならLiイオン電池に比べればANはまだかわいい,などの言い分はあろう。しかし,未熟な技術で電気二重層キャパシタの安全性を崩すべきではない。電気二重層キャパシタには幸いにも安全度の高いものを作る手段が存在するのだから,そちらを伸ばすべきであろう。メーカーばかりでなくユーザー各位にも,この辺の正確な知識と責任をもってキャパシタや電池の評価をお願いしたい。

国での販売認可を得たホンダFCX キャパシタハイブリッド
【図2】米国での販売認可を得たホンダFCX キャパシタハイブリッド
(ホンダインターナショナルサイトより,ホンダ技術研究所提供)

応用の実績

税金を使わせていただいた国家プロジェクトも初期の成果を得たので,達成レベルの海外との比較をするため2001年から電気二重層キャパシタのありそうな外国の学会に出張し,展示会や内外のウエブサイトを調べた結果,奇妙なことに気づいた。キャパシタがあまり強くない。そのうえECaSS(R)よりだいぶ性能の低いキャパシタが世界最高性能とPRされている。訊ねてみると,おまえの論文は読んでいない,商業生産されているものに限ればこうなる,などという。なるほど、いくら論文を書いても生産ができなくては普及はしないのだ。……これがOkamura Laboratory のサイトを開き、後にパワーシステムを吸収して量産に乗り出すきっかけとなった。

だか、キャパシタを売っていて,本サイトの文献ページにある世界電気自動車会議(EVS)やフロリダのキャパシタシンポジウムの論文を読まないだろうか。商業生産されているECaSS(R)キャパシタの例を図3に掲載した。いずれもLタイプ,2 ΩF前後で約6 Wh/kgのエネルギー密度があり,各社とも製造・運転経験の蓄積と生産拡大そしてコストの低下に注力の最中である。

ECaSS(R)各社のキャパシタ,Lタイプ単セルとモジュール
【図3】ECaSS(R)各社のキャパシタ,Lタイプ単セルとモジュール
(写真手前から時計周りにパワーシステム製、日産ディーゼル、指月電機。製造元各社提供)

ECaSS(R)の長所でもあり短所ともなるのが,キャパシタだけ入手したのでは済まない点である。使い方次第で同じキャパシタの蓄電能力が4倍も差が出る。その詳細は会員ページの論文をじっくり読んで頂くことにして,ここでは実施例をお目にかけよう。図4は指月電機製作所が発売した電気二重層キャパシタによる無停電電源で200kVA,100kVA,50kVAの3タイプある。その後このシリーズは下は5kVAから上は3MVAまで、無停電電源の全範囲に拡張されている。

キャパシタによる100kVA瞬時電圧低下補償装置
【図4】キャパシタによる100kVA瞬時電圧低下補償装置
(指月電機製作所提供)

乗用車では図2に示したホンダの燃料電池車FCXが新規材料の安全性にいたるすべてをクリアーして米国で販売許可を取得した。これでようやく世界で始めてのキャパシタハイブリッド形式の燃料電池車が2002年内に日米で発売される。

2000年東京モーターショウでのキャパシタハイブリッド・バス
【図5】2000年東京モーターショウでのキャパシタハイブリッド・バス

商用車では日産ディーゼルのキャパシタハイブリッド・バスがNEDOのACEプロジェクトの資金を得て,図5のように2000年に完成し2002年には更に改良された。スナップ写真の後方にキャパシタハイブリッドトラックも見える。
その世界初のキャパシタによるパラレルハイブリッド方式の8トントラックは今年6月に,ディーゼルエンジンとの組み合わせで発売された。2002年6月24日の試乗会の模様はキャパシタ製造設備も含めて報道に公開され,テレビ朝日ニュースステーションでかなり詳細に放送されたのをはじめ,新聞,雑誌,テレビ,インターネットなど各種の媒体に乗った。

発売された世界初のキャパシタハイブリッド・トラック
【図6】発売された世界初のキャパシタハイブリッド・トラック
(日産ディーゼル工業提供)

ECaSS(R)もようやく研究の結果これができるぞ,という段階から製造販売して,金を払えば買えるという段階になった。たくさん作って値段を下げて,皆さんに使っていただき,早く地球の環境に貢献するほどの規模と効果に広げたいものである。

(筆者:岡村廸夫)

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