HOME > 資料・読み物 > ECaSS・キャパシタ関連情報 > エナジー・キャパシタ・システムECaSS(R)とは何か

資料・読み物

エナジー・キャパシタ・システムECaSS(R)とは何か

ECaSS(R)の誕生

キャパシタ蓄電システムの考え方は他にもいくつもあるかもしれない。この章に、その例として述べるのは、本フォーラムの名称の起源となった一つの蓄電方式の、誕生から発展の経緯である。

1992年の正月にようやく電気二重層キャパシタに着目した筆者は,エネルギー密度を高める方法を模索していた。それまで諸先輩が苦心してきたキャパシタを,同じ条件で20倍にするのはできそうもない。だいたい,一つのことを20倍も改善できるなら,エンジンでも発電でもなんでも大成功なはずだ……。そこまで考えたとき突然なにかがひらめいた。

「同じ条件で……」「一つのことを……」といった、これらの枠を外せばよい。キャパシタは内部抵抗が低いのが特徴だが,ともすれば内部抵抗が高くなりたがる電気二重層キャパシタを,従来はあらゆる条件を犠牲にして内部抵抗を低く保とうとしていた。これを反対に「内部抵抗は高くてよいからエネルギー密度を増加させよう」としたらどうか。

一つのこと,つまりキャパシタだけですべてを解決すると20倍の改良が必要だが,二つの独立した要素があれば4倍と5倍で総合効果は20倍になる。キャパシタは他の総ての条件を犠牲にしてエネルギー密度を5倍向上し,そこで生じる問題は電子回路で補って4倍稼ごうと考えをきめた。ECaSS(R)(Energy Capacitor Systems 最近までECSと呼ばれていた)の誕生である。

ECSのデモンストレーション用セット一式
【図1】ECSのデモンストレーション用セット一式

上の考えをまとめるのに筆者が趣味でやっていた電子回路やコンピュータ,本職だった原子力で学んだ物理や化学が役立った。キャパシタの内部抵抗を増やすとどうなるかを電子回路シミュレータSPICEを使って 3V, 4,000Fの電気二重層キャパシタ2,000個のECSが,当時すでにコンピュータ上で今日とほぼ同じ完全な動作をはじめていた。図1は後年設立された㈱パワーシステムが製造したECSの実験セットである。現在はもっと小型なものが市販(→㈱パワーシステム)されているが,写真中央のキャパシタボックス (12.5Wh) 2個を使って乗用車用ヘッドライト50Wを25分程度点灯できる蓄電容量を有していた。

内部抵抗の高いキャパシタ

内部抵抗を高くしてよいなら,エネルギー密度が増やせることはキャパシタを作ってみるとすぐ分かる。活性炭電極も厚くでき,集電極や引出し線は薄く細くて済む。活性炭も内部抵抗が高くてよいなら静電容量の大きいのが使える。しかし,電気の技術者なら誰でも「抵抗を高めたら損失が増すにちがいない」と思うであろう。ところが損失が増えるのは同じ電流で充放電した場合で,内部抵抗の割合の一桁大きいキャパシタは一桁長い時間を掛けて充放電すれば,図2に示したように効率は等しくなる。つまりキャパシタの充放電効率は,内部抵抗の絶対値ではなく充放電時間とキャパシタのΩF(キャパシタ1Fあたり内部抵抗が何ΩかC*Rで表す値[1])との比で定まる。

キャパシタの充放電効率と内部抵抗
【図2】キャパシタの充放電効率と内部抵抗

電子回路と組み合わせる

元来どんなキャパシタでも電圧ゼロから,電池のような電圧源で充電すると,充電効率は50%以下になってしまう[1]。だが,玩具やメモリーバックアップ程度の応用では電力量が小さいから充放電効率などはどうでもよかった。

効率を改善するには,充放電とも電流を制御して使用条件が許す限りゆっくり,小電流で時間をかけるのがよい。そのために充放電電流を制御するスイッチングコンバータを用いる。またキャパシタの端子電圧は前出の式(1.1)のように放電につれて大きく低下するから,これを定電圧に保つにもスイッチングコンバータかバンク切換えと呼ぶ回路方式を用いる[1]。

他方,電気二重層キャパシタは耐電圧が低いから,複数のセルを直列にして用いる必要が起こる。その際に各セルの電圧配分が,静電容量と漏れ電流の影響で大きくばらつく。これには各キャパシタに並列モニタと呼ぶ小電力の電子回路を接続し,キャパシタを壊さずに充電能力いっぱいまで使う方法を考案した[1]。これら電子回路を図3のように前述の特製キャパシタと組み合わせて用いるのが新型蓄電装置ECaSS(R)の原理で,前出の図1はこの構成を実物化したものである。

[1]:岡村廸夫:電気二重層キャパシタと蓄電システム,改訂2版,日刊工業新聞社

新しい蓄電装置ECaSS(R)の基本構成
【図3】新しい蓄電装置ECaSS(R)の基本構成

赤飯と小豆の関係

ECaSS(R)ではキャパシタの設計も電子回路と組み合わせる前提で考えられている。それにもかかわらず,お宅のキャパシタは……という具合に,キャパシタだけを取り上げて世間のキャパシタと比較されることがよく起こる。確かにECaSS(R)用キャパシタはエネルギー密度が抜群に大きい。だがそれらは特定の電子回路と組み合わせてはじめて性能を発揮する。

ECaSS(R)のキャパシタと電子回路の関係は,赤飯の米と小豆のような関係にあって,どちらか片方だけを取出してしまっては本来の味が出ない……などと説明に苦労する時代が続いた。

ECaSS(R)による電力貯蔵システム(NEDO)
【図4】ECaSS(R)による電力貯蔵システム(NEDO)

その後は急速に実用への展開が始まった。その先駆として,図4のような電力貯蔵の実験装置が試作された。実験装置とはいえ蓄電容量5.8kWhは家庭用の分散型電力貯蔵装置として実用になる規模である。その後もこのホームページに紹介されている多数の論文やニュースにあるように,キャパシタハイブリッドバス,トラック,乗用車,無停電電源などの実用化が,今まさに進展しつつある。

(筆者:岡村廸夫)

[ NEXT ] キャパシタのエネルギー密度は電池より小さいか

ページのTOPへ