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電気二重層キャパシタとは

電池は化学反応を利用して蓄電するが,テレビやラジオに昔から使われているコンデンサは電気を電子のまま蓄える。それの非常に容量の大きなのが作られるようになった。その名は「電気二重層キャパシタ」,キャパシタとはコンデンサの別名である。正確には論文か書籍(→電気二重層キャパシタと蓄電システム)をお読みいただくのがよいが,簡単な説明を次に述べよう。

※写真の一部はクリックすると拡大して表示されます。

電気二重層の話

希硫酸に炭素棒を二つ離して浸け,正負の電圧を加えて0Vからゆっくり上げて行くと,約1Vまでは電流が流れず何の変化もない。1.2Vあたりを越えると両極の表面に僅かな気泡を生じ,さらに上げると盛んに泡立ってくる。
電圧を加えても電流の流れない状態では,電極と電解液の境(界面)に生じた電気二重層に充電され,キャパシタになっている。 1V以上で泡が出はじめるのは,キャパシタの耐電圧を越えて電気分解が起こったのである。水を使った電解液による電気二重層キャパシタは,泡が出ない範囲の1Vほどの耐電圧で利用できる。

なぜ”二重層”と呼ぶか。電解液に導体を浸すとその界面に,混んだ電車のドアガラスと乗客のように押し付けられて動けない電解液の分子が並んだ1層と,その電解液側に充電電荷によって引き寄せられるが拡散運動をしているもう一つの層ができる。この現象をHelmhortzが発見し1879年に電気二重層(Electric Double Layer)と命名した。

電気二重層キャパシタの原理
【図1】電気二重層キャパシタの原理

電気二重層がキャパシタの絶縁物として働くのは,電気分解の始まる電圧以下の範囲に限られている。キャパシタの蓄電量Uはその静電容量をC,耐電圧をVとすると,

U=CV2/2 ……. (1. 1)

したがって,エネルギー密度つまり体積や重量当たりの蓄電量を高めるには耐電圧Vを大きくしたい。水溶液系の電解液を使ったものでセル当たり0.9V程度,水を厳しく取り除いた有機電解液を用いて耐電圧2.5V?3.3Vの図1のような構造を持つ,主として小型の電気二重層キャパシタが現在市販されている。図2は1999年当時の電気二重層キャパシタのサンプルで,右端の18kFは国家プロジェクトで製造されたもの,それ以外のキャパシタは市販品である。

電気二重層キャパシタの概観
【図2】電気二重層キャパシタの概観

フィルムコンデンサのフィルム,アルミ電解コンデンサのアルマイト皮膜といった絶縁物の代りに電気二重層を用いると,耐電圧は低いが大きなメリットが得られる。この絶縁膜は考えられる限り最高に薄くて,わずか一分子である。その結果,面積当たり2.5?5μF/cm2の極めて大きな静電容量が得られる。

電極の構造

平方センチあたり数マイクロファラッド(μF)も静電容量が出るといっても金属や炭素の電極箔を巻き込んで電極を作ったのでは,大したエネルギー密度にはならない。そこで電気二重層キャパシタの電極には非常に表面積の大きな導体,通常は活性炭を用いる。

活性炭の細孔を撮影した透過型電子顕微鏡写真
【図3】活性炭の細孔を撮影した透過型電子顕微鏡写真 [拡大]

活性炭の表面積は1グラムあたり1,000?3,000平方米もあるというが,どうなっているか。図3は透過型電子顕微鏡による写真で原版の倍率約200万倍,フェーズコントラスト法という手段で撮影したものだ。左の未賦活の黒い細線の間隔が黒鉛の層間距離の3.4A°,つまり0.34nmで,で,賦活後の写真では間隔が広がっているのが見える。こゝにイオンが入り表面に吸着されるのだが,1000m2/g = 1E7cm2/gに上述の5uF/cm2を掛けると活性炭重量当たりで50F/gものキャパシタとなる。この表面積をできるだけ大きくするために10A°、つまり1nm程度の細孔を効果的に作る技術が不可欠なので、近年流行のナノテクの仲間にに数えられる根拠となっている。
電解液が重量の半分を占めるとしても,1gで25Fのキャパシタは巨大である。しかし1,000m2もある面積を絶縁皮膜でカバーするのでは5μFのアルミ電解を1E7つまり1千万個並列にしたと同等で,そのようなキャパシタの信頼性は,絶縁皮膜の均一性は,ピンホールは問題ないか。そこがこのキャパシタの特長で,電気二重層は自然現象だから必ず発生し,人間が作ったフィルムとは違って完全に無欠陥なため,電圧が範囲内にある限りパンクは起こらない。

活性炭電極断面の走査型電子顕微鏡写真
【図4】活性炭電極断面の走査型電子顕微鏡写真 [拡大]

電気二重層キャパシタの電極は活性炭をバインダーで練って塗布するか圧延して図1の集電極に接着する。その電極の断面を走査型電子顕微鏡で見た約1万倍の写真を図4に示した。大きな岩石のような塊が活性炭,糸を引いているのがPTFE(テフロン)で,細かな砂利に見えるのがカーボンブラックで,活性炭同士の電気的接触を良くするために用いられている。

二次電池と比べて

蓄電装置ではエネルギー密度,つまり重量あるいは体積当たりどれだけの電気が蓄電できるかが肝腎である。ECaSS®の研究が始まった1992年当時、図2の手前に写っているようなコイン型の電気二重層コンデンサが半導体メモリーの停電バックアップ用に,既に商品化されていた。中央の大きな(約250ml)円筒型も,パワー用キャパシタとして注文生産されていた。だが,これらのエネルギー密度は電池に遠く及ばなかった。当時の電気二重層キャパシタは1?1.5Wh/kgほどで鉛蓄電池の実力値25Wh/kgの約1/20に過ぎない。電気自動車に鉛電池を400kg積む代りにキャパシタでは8トン。これが原因でキャパシタのエネルギー貯蔵装置としての普及は,キャパシタメーカー各社の研究と販売努力にもかかわらず,発展しなかった。

キャパシタにエネルギー密度を求めるのは無理だから,低い内部抵抗による瞬発力を利用し電池を補なうのに使おうという考え方は以前から存在した。米国ではDOE
(Department of Energy) が巨額の予算と4つの国立研究所を含む13企業を擁して1992年からUltracapacitorプログラムを積極的に進めていたが,成功の見込みがないとして目標未達のまゝ1998年で終了した。これは日本および欧州のこの分野の関連各社にとって大きな衝撃であった。米国の自動車メーカー等のキャパシタへの関心もこれで一挙に減退したという。

だが当時の筆者らの仲間は,この頃も希望に満ちていた。そこには思いがけない手段があったから。

(筆者:岡村廸夫)

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