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ECaSS®に関する "FAQ よく出る質問と回答"

第2部:高度なトピックス

編集および回答:岡村廸夫
より高度な課題を扱う"FAQ よく出る質問と回答"の第2部では、さらに細部まで技術的、科学的な討論を行います。商業主義や宣伝に陥らないよう、正直にフェアにECaSS®の創案者としての立場から論じますが、その内容はこれまで世間に通用している伝統的な考え方とは異なる場合があること、必ずしも世間の通説に拠らないことをご承知ください。

ここで述べている以上の、その先の討論や質疑が必要な場合は掲示板に書き込んでください。一定のレベル以上のノウハウやECaSS®特許をフルに使う方法などは本サイトの前書きにあるように該当する権利者との間で技術移転契約が必要です。しかし、その前に理解し、議論すべきことは豊富にあるでしょう。
Q51
内部抵抗を増すと何故エネルギー密度が増えるのですか?
A51
端子に抵抗をつないでもキャパシタの容量は増えません。
講演会場で一人の紳士がやってきて丁寧に挨拶し「先生の書籍では大変お世話になりました。しかしECaSS®の本[1]は誤っています……」と言われました。なぜかというと実際に電気二重層キャパシタを購入し低抵抗を直列につないで、その内側と外側でキャパシタの静電容量を測って見たそうです。この方はすっかり憤慨し筆者を疑いました。なぜなら抵抗があってもなくてもキャパシタの静電容量はピッタリ同じだったのです。

残念ながらこういう方法では抵抗が増しても蓄電量は増えません。
キャパシタの内部構造で、セパレータ、集電極そして活性炭電極の三つがそれぞれ1 mmの厚さだったとしましょう。その他の細かな要素を無視すると、炭素電極の充填率は33%。つまり全体積の1/3が静電容量を生み出すことになります。

次に内部抵抗を犠牲にして、炭素電極だけ厚さを3 mmにすると、充填率は3/5つまり60%となります。こうすれば、得られる静電容量は体積当りで約2倍になりました。 それなら電極厚さを100 mmにしては?そうすると高い充電効率を得るに必要な充電時間が内部抵抗に比例して長くなって行きます。

この部分はECaSS®の原理の重要な鍵です。さらに詳細は英文ダウンロードページの論文11、12をご参照ください。
 
Q52
キャパシタを使う際ECaSS®電子回路の併用を推奨する理由は?
A52
ECaSS®キャパシタが最大性能を出すには条件があるからです。
ECaSS®の考え方で設計されたキャパシタは一般に、従来の他の方式で作られたものよりエネルギー密度に重点が置かれています。特に有機電解液系でPC(プロピレンカーボネート)を用いたキャパシタのハンディも含めるとECaSS®キャパシタ(たとえばEC-L型6.5Wh/kg,EC-B型12Wh/kg)は2-4倍程の蓄電量があるといえます。しかし、その一方で我々のキャパシタは内部抵抗が高い目なのも事実です。

それでも、電流モードで充放電した際、何分間充放電できていくらの効率と狙って設計してあり、実使用状態で往復(充電と放電)で90%の効率は容易に実現できます。それには電池の代わりにスッポリ置き換えるのではなく、電池用とは違う充電器が必要です。電流ポンプと総称される充放電回路部の良否はキャパシタのエネルギー利用率で2倍程度の差を生じます。

もう一つの電子回路は「並列モニタ」で、キャパシタの直列接続の問題を解消します。これを使わずにキャパシタの電圧を定格の7割まで下げ(30%ディレイティングで大丈夫だという保証はありませんが)ると、キャパシタの蓄電量は電圧の二乗に比例するので蓄電可能なエネルギー量は70%*70%=49%です。したがって、並列モニタを用いたECaSS®では約2倍の蓄電量と信頼性の高い動作が得られます。
 
Q53
並列モニタのバイパスは何故小型トランジスタで済むのですか?
A53
バイパス回路はセルの漏れ電流と戦うだけだからです。
大型15トンハイブリッドバスが600 Aの回生制動が入ると仮定すれば、電圧上昇を食い止める並列モニタはセル総数840個分の握り拳ほどのパワートランジスタ、それに大きな放熱板か水冷システムが必要です。これらは重くて嵩張り高価であるばかりでなく、効率を大きく損なうでしょう。

ECaSS®の設計ではバイパス用トランジスタは10A程度の素子で、すでに発売されたいくつかの実例で見られるように強制冷却なしで、大した放熱板もついていません。回生制動時の巨大電流はこのトランジスタを蒸発させるのに充分なパワーがありますから、並列モニタは電流を食い止めようとはせずキャパシタの端子間電圧を監視するだけです。その値が定格に達するとOR論理で結合されている共通ラインに信号を送ります。これによりシステムはキャパシタが一杯(正確には,少なくとも1個のキャパシタが満充電)だと知り、余分な回生電力を抵抗器に捨てるか機械ブレーキに切り換えます。

キャパシタの漏れ電流はマイクロあるいはミリアンペア程度ですが、10Aのバイパストランジスタはパルス状のオンオフ動作で、短時間に電圧のばらつきを補正する際に有効です。動作の全期間を通じてみると、バイパス回路の電流の積分値はキャパシタの漏れ電流の積分値にほぼ等しくなるはずですから、トランジスタに大きな放熱板は必要としません。

個々のキャパシタの初期化プロセスとシステムは英文ダウンロード論文12の第3章にのべてあります。
 
Q54
並列モニタに,なぜ簡単なアナログ回路を使ったのですか?
A54
故障の発生率をキャパシタより充分低くするためです。
マイコンを使い、ディジタルでやればもっと高級なことができるぞ。とは筆者もコンピュータをやっていたので承知しています。でもその反面、コンピュータがどんなに誤動作するかも知っています。コンピュータによる、たとえば二次電池の制御・監視装置は実用化されていますが、筆者はどれほどの信頼性が得られているか、疑問に思います。

コンピュータの専門家、たとえばプログラマは機械語で7A (Hex)と書けば、コンピュータのDレジスタの中身がAレジスタに移り、次の命令を読みにいくと信じて疑いません。でも現実には、そういう動作をしない場合が時々起こるのです。

誤動作に故障やノイズの影響まで含めると、マイコンで平均化や監視をおこなう方式の誤動作は、「電気二重層キャパシタの故障よりも遥かに大きな確率」になることは,専門家の間で異論はないでしょう。電気二重層キャパシタの高い信頼性を維持するために、ECaSS®では小規模なものや研究的な作品以外では、この部分にコンピュータを用いないで、極力シンプルなIC化に適した回路としました。
 
Q55
キャパシタをどうやって走行中に初期化するのですか?
A55
朝の出発前にキャパシタを初期化するのは待てないというのです。
開発の初期の会合の席で、筆者がキャパシタを初期化する手順を説明したところ、抗議がありました。運転者はイグニッションキーを廻した後は直ちに出発したい、本当はキーを廻す前に出発したいくらいなんだ、というのです。

運転者がキャパシタの初期化を待たないで済むよう、並列モニタにはそれ以後、新たな制御方法が追加されました。初期化しないでキャパシタの電圧監視だけでスタートし、後の時間に走行中でも少しづつ初期化していく方法です。

この制御方では、走り出した直後はキャパシタは初期化されていません。したがってその時点ではキャパシタの蓄電容量は正常値より小さくなっています。でも通常はそこでエコラン(燃費競争)をするわけではないので、最高の性能が出なくても我慢できます。

使いながら少しづつ初期化する方法は英文ダウンロード論文12の第3章に図やデータを用いて詳述してあります。
 
Q56
並列モニタをセル毎に付けてはコスト高になりませんか?
A56
コスト10%増で容量一杯使え信頼性向上と故障監視ができます。
並列モニタは無料では作れませんから、確かにコスト増です。しかし量産時にはモノリシックIC一つに数個分の並列モニタを入れた構造となり、セルコストの10%と見込んでいます。
このコストはキャパシタが定格電圧付近まで利用できることで充分カバーされます。

それに最近の電池もキャパシタも運転の信頼性向上のため、何らかの安全監視あるいは健康診断の手段が求められるのが通例です。前述の並列モニタは、現在知られているこの種の手段の中ではもっともシンプルで低価格な方式といえます。
 
Q57
AN電解液を使わずに実用性能EDLCの生産販売が可能ですか?
A57
確かに。日産ディーゼル,ホンダ,指月が既に実現しています。
PCプロピレンカーボネートに代えてANアセトニトリルを使うと、最適化した状態では静電容量にして約2倍、内部抵抗で約1/3にできます。一度AN電解液を使うと魔弾の射手の魔法の弾のように、もう使うのを止められなくなるでしょう。それにもかかわらずECaSS®ではANが有毒で引火点5℃と燃えやすいので、全く使用していません。

有機電解液を用いた二次電池やガソリンと比べればANが特に危険だとはいえない、などの意見もあります。それでもECaSS®では安全な道を選びPCを用いました。PCの引火点は変圧器などの絶縁油に近い130℃で引火しにくく、燃えても毒性がありません。パワーシステム社のサイトに釘を打ち込んだり、トーチで焼いたりした試験例の写真やビデオがあります。

低温度での特性がPCのもう一つの課題です。-35℃では内部抵抗が20℃のときの約10倍に増加します。これに対してANでは2倍ほどにしかならず、これがANを使いたくなるもう一つの理由です。

我々はその問題をシステム設計により解決しました。最低温度で必ずできなくてはならないのは何かというと、エンジンのスタートです。この時点で燃費の記録に挑戦する必要はありません。キャパシタバンクは常温でエンジンの起動に必要なパワーの10倍以上あるので、仕様の最低温度でもエンジンの起動は完全です。起動後は通常の10倍もあるキャパシタの内部抵抗で発熱を生じ、自然に温まっていきます。
 
Q58
電気二重層キャパシタの高コストは本質的なものでしょうか?
A58
今は高価でも生産規模が拡大すれば下がってきます。
この稿は岡村研究所がパワーシステムを吸収し、自社でキャパシタの量産に進出する状況となって、大きく変化しました。量産と価格の関係のデータは、今後パワーシステム社を始め、キャパシタメーカーが活発に発表すると思われるので、それぞれのサイトをご参照ください。

(以下は旧い回答です)

本件は筆者には難しい質問です。これは科学的な計算というよりマーケットに依存するからです。生産規模や市場がどんなスピードで拡大するかは、数学的な根拠がありません。

いつどんな規模になるかは不明ですが、製造規模と出力当りのコスト、蓄電量当りのコストとの関係を示すグラフを掲載します。

本来は、蓄電装置のコストはその購入価格ではなく、1サイクル当りで表現されるべきです。米国蓄電協会ESAのtutorialにも次式が掲載されています。

One cycle cost = (Capital / Energy) / (Cycle-life * Efficiency) [1]

ただし図1は従来の価格の感覚との関連を失わないよう、量販時の購入価格でプロットしています。EC-Lのラインでは右上端が現在の価格で、左下にある次のマークポイントが生産量が10倍になったときの価格です。その10倍は次の左下のマークと、10倍ごとに下がっていきます。
 
  【図1】キャパシタの生産量と出力当り価格,および蓄電量当り価格の関係
参考文献
[1] 岡村廸夫:電気二重層キャパシタと蓄電システム,改訂2版,日刊工業新聞社,2001年2月改訂第2版発行
[2] 米国蓄電協会(Electricity Storage Association)ウェブサイト

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